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3rd Asian Conference on Sexuality Education
第三届亚洲性教育学术会议
第三屆亞洲性教育學術會議
8月18日(土)

◆開会式・基調挨拶
● 基調挨拶
    --第3回アジア性教育学術会議実行委員長・堀口雅子
 この会議は性教育を主要なテーマにアジア各国の学校、医療、地域などでさまざまに活動している団体、個人が参加し、セクシュアル・ヘルス/ライツの実現に寄与するために学術と実践の場の交流を図ってきました。

 第1回の会議は01年に中国・北京、第2回は04年に台湾、第3回はここ東京で開催され、次回は香港に引き継がれます。中国の会議では、次のような印象深い発言がありました。「性感染症や若年妊娠・薬物中毒などの世界的蔓延は、若者の身体と精神の成長を妨げ、家庭の幸福・社会調和の崩壊を招き、社会経済発展に影響を及ぼす。多くの専門家は若者への性教育の重要性を指摘していましたが、性の学習はまだ乏しくそれを専門的に討議する場がありませんでした。」

 それから6年、今回の会議のテーマは「アジアにおける性の教育と健康の展望」で主に次の3点を中心的な課題にしています。

1.学校・医療・地域社会でどう取り組んでいるか。
2.世界の性の研究:エイズ、性感染症、性の健康活動、避妊。
3.各国の性事情、性的発達保障、障害者の性、学校や家庭での性教育です。

 社会の発展の陰に、セクシュアリティに関しては憂れうべき出来事が多発しています。次世代を担う若者の心と体の健康を守るために正しい知識をどのように伝えたらいいでしょうか。言葉も習慣も違う私たちですが、さまざまな手段を駆使してともに学び、語り合いましょう。みんなの幸せを願う大きなウエーブがアジア各地に広がっていきます。ここで出会った絆を大切に繋げていきましょう。

 私は産婦人科医であり、特に思春期に関心をもって診療を続けていますが、その中で子供たちの置かれている環境が変化していることを感じます。また講演のために学校を訪れると、そこでも診療現場以上に心配な出来事がうかがえますし、その一方で歪んだ行政の締め付けが教師を萎縮させ、性教育の正しい普及を妨げていることも痛感します。

しかし悲しいことばかりではありません。地域では医師、看護師、助産師、保健師、心理士、薬剤師などの医療関係者が保護者を含めて連携し、改善に力を合わせています。

 今回の大会は各国の同じような悩みをもつ人がそれぞれの経験・業績を発表し大きな成果をえられるものと期待しております。

◆記念講演
●「性の健康な社会の実現に向けて」
    --社団法人日本家族計画協会会長・松本清一
 94年に開かれた国連の人口開発会議/カイロ会議において、その行動計画にリプロダクティブ・ヘルスが含まれました。98年の国連の世界人口白書では、思春期の若者のセクシュアル・ヘルス/ライツのための保健サービスの必要性が説かれました。02年にはその健康と権利への投資の必要性が強調されました。カイロ会議から10年目の04年には思春期の若者のセクシュアル・ヘルス/ライツに関して、未解決な大きな問題があると報告されました。

 世界の若者の実情を見ると、まず貧困の問題があります。10~24歳の若者は世界の人口のほぼ半数を占め、その85%は開発途上国に暮らし、HIV/AIDSの脅威に直面しながら、45%が1日2ドル以下で暮らしているのです。性と生殖に関する健康情報とサービスへのアクセスの確保が非常に重要になっています。

 若年妊娠については15~19歳の少女の出産が年間1400万件と推定されています。開発途上国の少女のうち1/4から1/2は18歳未満で母親になっています。またこれらの年代では妊娠中あるいは出産時の死亡率が高く2倍ほどになります。望まない妊娠により安全でない中絶に至るケースは、年間500万人とされます。アフリカ諸国の中には、そのために毎年1万人の女性が命を落とし、半数が思春期の少女です。

 HIVともに生きている人のうち、ほぼ1/4が25歳未満であり、毎日6000人が新たに感染し、その大多数を女性が占めています。サハラ以南のアフリカでは03年で陽性者の53%が15~24歳の若者であり、女性は男性よりも16倍も陽性になりやすいとされます。これは女性が生物学的、社会的・文化的・経済的理由から感染を受けやすいためです。

 貧困とジェンダーに基づく差別は、感染の大きな原因となっています。思春期の若者が前途に希望をもち、必要な技術・知識を提供することが感染拡大阻止に重要です。青少年の雇用拡大も大切です。青少年のエネルギーや可能性を活用して彼らに市民権を与えることは、ジェンダーの平等や社会・経済の発展を促進する担い手を養成する機会になります。

 日本の状況はどうでしょうか。75年ごろから10代の妊娠中絶が顕著に増加してきました。私たち日本家族計画協会は80年に思春期委員会を設けて活動をしてきました。81年には思春期保健セミナー、82年からは電話相談、84年からは思春期保健外来を開設しました。思春期保健相談士としての認定数は07年3月までに7086名に達しました。

 セクシュアル・ヘルスの定義については、WHOの報告がありますが、従来の訳文はやや分かりにくいので、私が試訳をすると、次のようになると思います。「セクシュアル・ヘルスとは、単に性感染症その他の病気や身体の異常がないということではなく、性に関して男女がお互いに誠実さや尊敬の念を持って同意し、身体的だけではなく、精神的にも、また人間関係の上でも、教養ある、良好な状態で性的行動が経験され、個人的および相互の生活を豊かにすることである。」

 セクシュアル・ライツ:性の権利とは、やや仰々しく聞こえるかもしれません。しかしライツを辞書でひけば「正しいこと、当然なこと」とあります。人々が生涯にわたって性の健康を享受できること、そのために必要な情報、教育、サービスを受けられることがセクシュアル・ライツです。これがあらゆる人間が有する、生まれながらの自由・尊厳・平等に基づく普遍的人権とも言われます。

性の健康からみた性教育について考えてみたいと思います。

 若者への健康教育の必要性は80年代から90年代にかけての国際会議で繰り返し強調されてきました。そこには責任ある性行動、妊娠・出産、任意の禁欲、家族計画、安全な人工妊娠中絶、エイズを含む性感染症、ジェンダーの問題などの情報が含まれています。思春期のリプロダクティブ・ヘルスの専門家は、性教育が成功する要因として、次の点をあげます。

第1に、どんな性行動が危険かを明確な言葉で伝える。
第2に、活動を評価するために行動変容の枠組みを用いる。
第3に無防備な性交の危険性、それを避けるための情報を提供する。
第4には性行動に対する他人からの圧力を排するためのプログラムに取り組む。模範例を示す、対話・交渉・拒絶の技術を習得させる。
第5に参加型教育を用いて、参加者一人ひとりが情報を自分のものとして利用できるようにする。
第6に行動目標と教育方法、学生の年齢、性経験、文化に適した教材を使う。

 また知識を増すことは大切であり、どこにどんなサービスがあるかを若者に知らせる必要があり、プライバシーの保持も大切になります。

 性の健康を享受するためには、包括的セクシュアリティ教育が必要です。その目標はセクシュアリティに対して肯定的な態度を醸成させること、自分自身が性的な存在であることを受容することなどになります。これらはすべての人に必要ですが、特に学校における包括的なセクシュアリティ教育が、個人の生涯にわたる性の健康にとって、建物の礎石のような役割を果たします。

 最初に述べましたように、性感染症が蔓延している現実に対して、必要な情報が若者に届いていません。本来は政府が性の健康が基本的人権であることを認識し、それを推進する責任を負っているわけですが、現状としてはいろいろむずかしい状況があります。みなさんの一層のご理解とご協力をお願いいたす次第です。

●「国際的視点から見たアジアにおける未成年者のリプロダクティブ・ヘルス」
    --国連人口基金リプロダクティブヘルス部長 アルレッティ・ピネル
 最初にアジアの状況にふれます。アジアは世界の人口の60%以上を占めていますから、アジアを語ることは世界を語ることでもあります。アジアでは毎年25万人以上の妊産婦が死亡しています。特に問題となるのは、安全でない妊娠中絶です。

 HIVについてみますと、アジアの感染者は860万人とされ、毎年新規感染が100万になります。治療は高価で予算が取られるために、予防がおろそかになりやすいのが現実です。また性差にもとづく暴力もアジア地域で重要で、人身売買、肉体的・性的暴力、強制中絶、DVなどの問題があります。

 会場にいるみなさんこそが、これらの解決役を果たします。みなさんは性教育こそがより幸福な人生を実現する力になることを理解されているでしょう。ご参考に、私の経験を少しお話します。私は79年にブラジルで性教育の仕事を始めました。当時は軍事独裁政権だったので、政府系の団体はもちろん民間団体も活動は不活発でした。ブラジルはカーニバルなど、セクシーな国と思われがちですが実は保守的なのです。

 当時の性教育は避妊や性感染症予防との観点のみで、幸福、健康のためという観点はなかったのです。しかし私たちは性教育のプログラムを作り、そこにはジェンダーの観点や尊敬の念、責任、家族生活あるいは生活における市民性を取り込みました。個人的な幸福・福祉だけでなく、社会的な連帯を念頭におきました。性教育とは、若者たちが将来よりよい生活を送るための準備の一環であると捉えたためです。こうしてブラジルの性教育は少しずつ変わっていきました。

 現代の若者はさまざま多くの課題を抱えており、かつてより深刻とさえいえます。でも、みなさんと一緒に南米の楽観主義とエネルギーを取り込みたいと思います。性教育は、それが必要であり、またそれによって世界をよりよい方向に変えていくのだという、強い信念をもつことが大切です。

 子供に対する性教育をどうするかについては、さまざまに論議されていますが、子供のときから始めることは重要です。それは、小学1年生にセックスや生殖のことを教えようというのではなく、人生において大切なこと、つまり自分やお互いを思いやることをまず教えるべきでしょう。

 国連ではミレニアム開発目標を設定しました。そこには15年までに達成すべき8つの目標が掲げられていますが、健康に関しては3つの目標があります。その4番目は「幼児死亡率を低下させる」であり、5番目は「妊産婦の健康状態を改善する、6番目は「HIV/AIDS、マラリアなどの病気と闘う」です。

 世界では、エイズや結核、マラリアなどによる死亡数よりも妊産婦や5歳以下の子供の死亡数のほうが多いのです。しかしそれはあまり気づかれないので、ここで4番、5番に掲げられました。つまり母親と子供の健康に重点を置くということです。具体的な活動をするための組織が、本年の9月末までにニューヨークで発足します。ノルウェーやカナダは、すでにそのための活動をサポートすると約束しています。

 ちょうど来年の7月には日本でサミット会議が開催されますので、妊産婦と子供の健康問題が優先課題として取り上げられることを願っています。みなさん、手を携えて、ともに協力していきましょう。

※8月18日に会場で配布した記念講演者ピネルさんの原稿において、事務局の不手際により不備があり、最後の2行が欠けております。ここに、深くお詫びして訂正し、完全版を掲載させていただきます。
完全版はこちらをダウンロードしてください。

◆パネルディスカッション
「主要参加国における性と性教育をめぐる情勢と取り組み」
    --司会 社団法人日本家族計画協会・小長井春雄
●(日本)社団法人日本助産師会・江角二三子
 現在日本には約26,000人の助産師がいますが、この数は就業している人数で、国家資格をもっている方はもっと多くなります。日本助産師会は、助産師の役割と責務にまとめましたが、そこでは妊娠・分娩の介助のほかに、産褥期や新生児・乳児期のケアも対象としています。さらにそれだけではなく、ウィメンズ・ヘルス・ケアをうたっており、その中には思春期ケアが含まれます。さらに、保健・医療関係者や家族・学校・地域社会と連携してこれらの責務を果たすとしています。

 性教育については、出産の現場に立ち会う者として、命の重み・大切さを核にする思春期教育を、学校での授業あるいは講演形式で実践しています。その内容は、生命の尊厳、望まない妊娠、中絶、避妊。性感染症と予防、妊娠出産の計画と育児、月経、自分の体を知るなどになります。

 助産師会の平成16年調査によると、性教育出前講座として、幼稚園・保育園が68施設.小学校が1088、中学校が889、高校644、その他88施設で行っていましたが、実際にはこの倍以上の数になるでしょう。「その他」とは大学、専門学校、保護者、学校教員などです。

助産師会としては思春期ケア、あるいは性教育について、一層の活動をしていこうとしています。

● “人間と性”教育研究協議会・金子由美子
 私は中学校の養護教諭の仕事に長年携わり、思春期の子供たちの心・体・性についてのサポートをしているほか、卒業した若者たちとエイズの予防・啓発活動も行っています。

 日本には「子供は時代を映す鏡」という言葉があります。それは、子供が社会状況の変化を敏感に察知し、心や体の働きあるいは異常として、発信してくれるからです。そして、いま子供たちが悲鳴を上げているにもかかわらず、社会環境は一向に改善されません。不登校児童・生徒、校内暴力や少年・少女を狙った性犯罪、買春、虐待・ネグレクトなどなど、事件はセンセーショナルに扱われても抜本的な対策は講じられていません。

 私は性教協の一員として性教育に携わっていますが、特に気になるのは最近のバッシングです。私たちの会は82年に設立されましたが、これまでの活動をキーワードで示すと、次のようになります。

 セクシュアリティ、プライベート・ゾーン、ジェンダー、セクシュアル・ハラスメント、エイズ,同性愛、インターセックス、トランス・ジェンダー、性同一性障害、ドメスティック・バイオレンス、セクシュアル・アビューズなどです。これらのうちの外来語は、それまで日本では認識されていなかったことです。

 かつて目新しかった言葉も今では広く認知されるようになりました。しかし21世紀という歴史のターニングポイントにおいて、ジェンダー・フリーやセクシュアル・ライツに対するバッシングが起こりました。戦後教育を歪みと決め付ける勢力が背景にあることが大きな問題です。

 それはたとえば、次のような仲間の先生の話にあらわれています。小学校5年生を対象に、精子と卵子の話などのあとに妊娠・出産のテーマになったときに、突然校長から待ったがかかりました。保護者からも要望があったのに、校外で保護者のコンセンサスがある生徒だけを集めての授業になりました。その授業を受けたある少女が、「とてもいい授業でうれしかったんですが、全員で話を聞けなかったのが残念でした」と言ったそうです。

 性教協の活動は、性をポジティブにとらえ、両性の平等を含め、性教育の必要性を具体的な実践の中で研究しています。学校・家庭・地域との連携とは文科省が提唱している言葉ですが、私たちはそれを私たち自身の言葉にできるようなアジア会議にしていきたいと願っています。

●台湾、樹徳科技大学人類性学研究所長・林燕卿
 台湾の性教育の現状と発展は4段階に分けられます。啓蒙期、展開期、性科学の発展期、性教育のプログラム期です。81年から88年は、新聞雑誌などが性に関する知識を掲載するという方法で性教育が展開されました。次に民間機関が設立されて性教育がスタートしました。

 つまり、91年の5月に台湾に性教育協会が設立され、98年までに性教育が広く展開されました。いくつかの大学で性科学、ジェンダーに関する研究室が設けられました。次に、それらの研究が盛んになります。01年には樹徳大学に人類性科学研究所が設立され、05年には博士課程が設けられ、さらに性教育、性に関する相談、性と社会をテーマに教育を始めました。

 性教育プログラムを説明します。68年から台湾において9年間の義務教育が実施されました。そして健康教育との名称で、小学校5、6年を対象に性教育がスタートしました。内容は思春期、異性、家族について、中学校では生殖、保健、家族計画についてが中心になります。

 次に、性教育が直面している4つの問題を紹介します。かつては異性愛を前提にした禁欲主義が中心で、性の権利に関する教育は欠如していました。性的な差別については説教調であり、十分な効果がありませんでした。性感染症や妊娠についても、性行為をしないというのが教育の中身でした。これらは2000年までの教育方針でした。

 01年になって、個人的には、子供のそれぞれの時期に合わせた教育を採用してきました。しかし人々の価値観はさまざまであり、それらの考え方を融合させる時期になってきたのではと思います。性教育を展開するにあたっては、教師の育成が非常に大切です。現在、台湾の法律では、教職課程では年間18時間の授業を受けます。しかし質の問題だけでなく量の問題も大きく、教師の不足は明らかで、全国では20万人の講師が必要となります。さらに、教育方法を教えるだけでなく、教師本人の性に対する態度、観念が大事になっていることを強調したいと思います。

●中国・北京、首都師範大学性健康教育研究センター長・張玫玫
 中国で青少年期対する性教育が始まったのは90年以降です。本日のお話しのテーマは中国の性教育の今後のあり方についてですが、現在の教育内容を簡単に語れば、人々がよき男性、よき女性になる、そのための性教育です。

 何をもってよき男性、よき女性とするのでしょうか。まず心と体の健康であり、性的機能も正常であるということであり、そして「自信」です。それは自分自身の性的な特徴を受け入れて、それを魅力として表現できることでもあります。さらに、性別の役割、自分の役割が周囲の人にも歓迎され、人間関係に調和が取れることです。

 性教育の実際としては、まず問題に突き当たってから教育することにあります。あまり早くにはふれない。それは性的な意識を目覚めさせてしまうからです。特に女子の婚前の性行為をなくすことにより、生涯にわたっての幸せな結婚生活ができるという考え方があります。さらに、エイズなどの性感染症の予防を口実に、青少年を脅して性行為から遠ざけるという考え方があります。

 これらの背景には中国の封建社会における性倫理・道徳があります。婚前性交がなく、一生涯同じ夫婦で過ごす。セックスパートナーも生涯一人ということでもあります。西洋的なヒューマニズム、精神分析などの理論を受け入れ、性というものが本能であるとは受け入れますが、心理的にも生理的にも未成熟な人々は新しい生命を育むことはできないと考えられ、少女の妊娠には断固として反対するといった基本的な考えがあります。

 中国における性教育の普及はまだまだ不十分であり、それが実施はされていても効果が明らかではないという問題もあります。

●香港家庭計画指導協会教育組主任 李明英
 香港の性教育の状況をご報告します。香港では、まだ独立した性教育カリキュラムはありません。86年に教育局がガイドラインを示しました。そこでは理論的なことだけで実際に性教育を行うかどうかは各学校にまかされていますそこで、たとえば小学校では「常識科」の中で、中学では「道徳」や「公民科」の中で性教育が行われてきました。

 しかし保護者や教員にはタブー視も多く、青少年は知っていることが少なければ少ないほどよいとする考え方があります。もちろん性教育の重要性を認識している方もたくさんいるわけですが、どこから手を着けてよいのか分からない状況にあります。

 その一方で、メディアには性情報が氾濫しています。多くの青少年は保守的であっても、一部は活発です。かれらが関心をもつのは、望まない妊娠、リプロダクティブ・ヘルス、緊急避妊、セクシュアル・ハラスメント、性感染症などです。どのようにニーズを満足できるでしょうか。それをみなさんと一緒に考えたいと思います。青少年も性的な存在であることを理解する必要もありますし、かれらの意見を聞かねばなりません。実際の生活に即して、たとえばコンドームをどう使うかといったことも必要です。

 次に私どもの協会の性教育原則を紹介しますと、選択する権利が大切です。いろんな情報を与えて選択させる。そして自己決定に関する責任をきちんと取らせる。また決定するための分析能力をつけさせることも大切です。教育は双方向的であるべきで青少年も自分の意見を述べるように。教材の工夫も大切。

 私たちの組織は香港で最大かつ最も長い歴史をもちます。おもな業務は3つあり、第一線での講座の開催、関係者の研修、そしてリソースを発展させることです。活動の対象は青少年だけでなく、保護者、教員など多岐に渡ります。社会の性教育への認識を高めさせることも重要な課題となっています。



8月19日(日)

◆分科会プログラム一覧

 多少の変更はありましたが、最終的な分科会プログラムを掲載します。

分科会プログラム


◆教育講演(1)
●これからの性教育の方向性を問う
    --“人間と性”教育研究協議会・代表幹事 村瀬幸浩

 2005年に性の健康世界学会が採択した「モントリオール宣言」は、これからの人間の性のあり方を明確に示しました。それを参考に、私たちの課題を3点にまとめて報告します。

 まず第1に重要な課題となるのは、男子への性教育です。歴史的に見ると性教育の基本は、女子の性を中心とした、生殖と道徳の教育でした。近年になって両性平等の性教育に変わり始めましたが、男子の性教育は依然として軽視されています。しかし現実には予期せぬ妊娠、性感染症、強制的な性など、男子の自己中心的な性行動が一因となるトラブルが起こっています。その背景には、巷に氾濫する男性中心の差別的・攻撃的な性情報があります。同時に、女子の性に対する無知や歪んだ先入観を正す必要もあります。月経の辛さ、予期しない妊娠、DVの恐怖、セクシュアル・ハラスメント。

 それらの痛み・屈辱感・恐怖感、そうした女性の感性、感情も男子に教えなければなりません。そうしたことで性における対等なパートナーシップがめばえるのではないでしょうか。

 次に大切なことは、両性の平等からジェンダーの平等という視点です。いまの話では、男女関係を語ってしまいましたが、そこには性別二分論、異性愛が当然とする意識があり、その背景には宗教だけでなく、リプロダクティブ・バイアスがあります。しかし「モントリオール宣言」にもあるように、性的な少数者を含めた、すべての人々の性の権利の保障こそが大切であり、それは世界的に大きな潮流ともなっています。

 第3には、性のポジティブな評価です。これまで性教育で語られる性は、ネガティブな性が多かったのではないでしょうか。高校生に中絶があると、ペナルティーの対象になりかねません。もちろん人間の性には、不幸や悲しみや犯罪につながる面もあります。その理解はもちろん必要ですが、否定的な、悲しい、つらい、暗い、汚いといったメッセージだけでよいのでしょうか。

 性の快楽性あるいは微笑み、ささやき、やさしさ、生きる幸せにつながる性のイメージを伝えるべきではないでしょうか。学校では生殖の性だけを語り、快楽の性については、ポルノやAVで刷り込まれているのが現状です。攻撃的な性には、相互のコミュニケーションはありません。

 もちろん学校教育の中で、快楽をどう教えるのかは簡単ではありません。しかし、それを語る力をもちたいものです。性行動に性急にならず、生きる性の土台を見つめる。心の成熟があって、はじめて幸せな性があることをイメージさせるようでありたいと思います。

◆ランチョンセミナー
「一泌尿器科医の性教育
   ~包茎、コンドームからコミュニケーション、そしてコンドームへ」
 --社団法人地域医療振興協会ヘルスプロモーション研究センター長 岩室紳也
 泌尿器科医として25年の診療経験と、公衆衛生とくに思春期の若者のリプロダクティブ・ヘルスに関わってきた経験をもとにお話をさせていただきます。

 私はこれまで「コンドームの達人」を自称し、その正しい使い方を広めてきたつもりですが、どうしても失敗はありえます。どうしたらいいのでしょうか。ある人は正しい使用法ではなく命の大切さを説くべきだと言い、またある人は自己肯定感を説くべきだと言います。こうして、いろんな考え方があることが大事だと気づかされてきました。

 そんなある時、WHOの日本人関係者から、エイズなど性感染症対策には、人と人との関係性の再構築、コミュニケーション能力の再開発を急ぐべきだと聞かされて、大いに感銘を受けました。情報を正確に伝えれば知識は増えますが、コミュニケーションを通した感動の共有やピアプレッシャーがなければ、生きる力は育ちません。

 私たちの組織では2年前から、思春期保健指導者養成講座を始めました。その講座の中で、あなたが子供に伝えたいメッセージを3分で言ってくださいと参加者に問うと、たとえば「命を大切にしましょう」といったスローガンが出てきます。いつ命が大切だと思いましたかと尋ねると、「子供を産んだときです」と答えます。しかし、それでは子供を産んでいない中学生には伝わりません。

 スローガンに頼らずとも、人を感動させる、すてきな言葉は生まれるものです。いやむしろ、スローガンを語れば語るほど、子供たちは自分自身の頭では考えなくなります。

 これは性教育に限りませんが、真実よりも事実、知識より経験を伝えることが大事ではないでしょうか。私ができることは私にしかできないような気がします。会場のみなさんができることは、みなさん一人一人にしかできないことです。それを大事にしてください。

 純潔が一番と思っている方もいるでしょう。そう考える方は、ぜひそれを言ってください。次の講演をされる北村邦夫先生は、ピルの普及のためにもっともっと頑張っていただきたいと思いますが、でもぼくはそれを言えない。実感がないからです。私たち、特に性教育に携わる私たちにとって大切なことは、私たち自身の経験や思いを率直に語ることでしょう。

◆教育講演(2)
●日本の若者のリプロダクティブ・ヘルス/ライツ
    --社団法人日本家族計画協会専務理事・クリニック所長 北村邦夫
 統計的にみると、日本の若者の妊娠率は先進諸国に比べて、むしろ低い数値ですが、しかし中絶の割合は高いのが実際です。ある外国人ジャーナリストは、日本は中絶天国と揶揄されるが、あれは中絶が自由に行えるというよりも、日本の女性――あるいはカップルは、ピルなど確実な避妊法に目を向けずに、男性に依存している。中絶を避妊法の1つであるかのようにとらえていると言います。

 これまで直線的に増加していた人工妊娠中絶は、近年に減少傾向を示しているものの、なお依然として高い状態です。また性感染症の実態をみると、若い世代でのクラミジア罹患率は世界的にも大変に高くなっています。エイズ患者の増加状況はG7諸国の中で、日本だけが増えています。しかも日本では、発病して初めて感染を知ることが多いという問題があります。

 このように若者のリプロダクティブ・ヘルスがなぜ侵されているのでしょうか。1つは、性教育への消極性があります。新聞報道にもあるように、中教審は「高校生の性交は不適切」との見解を出しました。高校生に対して、具体的な避妊法、安易に指導すべきでない、とも言います。また東京都は、模型などを用いたコンドームの装着授業は不適切だとしました。

 こうした無理解な性教育関係者もいますが、国民全体は性教育関係者に大いに期待しているのが実際です。2006年の厚労省研究班調査によると、国民は性教育に対してバランスの取れた願望をもっていることが明らかです。たとえば、次の項目に関して、「何歳ぐらいまでに知るべきだと思いますか」と尋ねた結果を紹介しますと、「男女の心と体の違い」については「小学校卒業までに」との回答が8割ほどでした。

 コンドームの使い方については、68.7%が「中学卒業までに」と回答しています。いかにバッシングが起ころうとも、この国民の声をバックに私たちは前に進まなければいけないでしょう。

 世界の中の日本をみると、性交経験率は欧米に比較して低くなっていますが、避妊法に関してはピルの使用が著しく少ないという特徴があります。それぞれの国によって税制が異なりますから単純な比較はできませんが、英国ではピルは無料、スウェーデンは最初の3,4周期までは無料で、こうした点にも普及を遅らせる一因があるように思います。03年世界人口白書は、思春期の若者の健康と権利への投資は次世代に大きな利益をもたらす、というテーマでした。私たち日本は十分な投資をしているでしょうか。

 緊急避妊法は国連加盟国192カ国のうち、それを認可していないのはイラン、イラク、アフガニスタン、北朝鮮のほか日本などの数カ国にすぎません。知らせないのは罪とまで言われる緊急避妊法ですが、日本ではまったく不十分な普及状態です。私たちはその普及・啓発活動に努めていますが、私の試算では、使用経験のある国民は80万人にも及びます。私どものクリニックには、過去8年間に656人が緊急避妊を求めてクリニックを訪れました。原因は、コンドームの破損や脱落などが目立ちます。

 HIV/AIDS対策の予算がどんどん減らされているころも大きな特徴です。感染者に対する治療費は生涯で1~2億円ほどとされますから、経済効率から考えても予防対策の充実は重要です。東京都では1日に2人の割合で感染者が増えていますが、都の予防予算も激減しています。

 コンドームだけで避妊と性感染症予防をするのは不適切ですし、緊急避妊についても、もっと広く教えてほしいものです。私は子供たちの学ぶチャンスを奪わないでほしいと声を大にして申し上げたいと思いますし、また女性が主体的に取り組める避妊方法としてのピルの意義は非常に大きなものであると強調いたします。



8月20日(月)

◆教育講演(3)
「エイズのリアリティをいかに伝えるか」
    --特定非営利活動法人ぷれいす東京代表・池上千寿子
 現在日本ではHIV陽性あるいはAIDS発症として報告される方の数は年間、1000人を超え、毎年増加しています。延べ人数では14000人に近くなっています。主な感染経路はセックスであり、男性とセックスをする男性があらゆる世代で増えています。

 いかに予防を有効にするかが大きな課題ですが、それに向けて予防とケアをつなぐ手法、living togetherを私たちは開発し実践しておりますので、それを報告します。

 自分がHIV陽性であることをどのようにして気づくのでしょうか。日本で一番大きなHIV専門診療機関である都立駒込病院の場合、保健所などの検査でそれが判明したケースはわずか6%です。病院・診療所の合計は68%ですが、入院や手術の前にたまたま検査を受けたケースです。ほかの病院の場合では、保健所・検査場で判ったケースは36%ですが、そこでは「拠点病院」から紹介されたケースが目立ちます。厚労省が指定した拠点病院は全国に300、東京には30以上ありますが、実際には診療経験が少ないために、一部の病院に患者が集中している実態を示しています。

 04年にぷれいす東京が行なった調査結果によりますと、病気を抱えた人のストレスは通院やエンドレスな服薬かと予測していたのですが、実際には、病名を隠すことの負担が非常に大きいことが分かりました。私たちがLiving together戦略と言っているのは、他人事を自分事にする仕掛けのことであり、言い換えますと感染者の経験が見えやすくなることです。周囲の個人が自分の感染の可能性を身近に感じ、自分の行動を振り返る動機付けになる。これがケアと予防を促進するのです。

 このやり方の元になったデータを紹介します。05年にゲイとバイセクシュアルを対象にしたネット調査です。422人が回答され、そのうち15人は陽性、また40%以上は検査を受けたことがありました。陽性者との接触状況は、ゲイ雑誌で陽性者の手記を読んだことがある人が63%。コンドームの必要性は90%が理解し、感染したら生活に支障がでることも90%が理解していました。

 このように回答者はかなり均質な集団といえます。しかし、自分がいつもコンドームを使うことに関しては、分かっているけど負担という人は多く、自分が感染する可能性についても回答のバラつきが目立ちました。ところで、感染の可能性を高く見積もる人の背景をみると、仲間の手記を読んだことのある人が多いのです。また読んだ人のほうが検査を受けた経験が多い結果となりました。

 そこで3つのレベルでの戦略を推進することにしました。まず直接アプローチ。まず1対1で直接伝えられるケースを増やします。次に、半間接アプローチ。講演などの場で本人の顔を見て、体験・情報を受け取ります。3つ目が間接アプローチで、これは感染者・患者の手記です。

 留意点としては、1人の話を読んで、それが患者全体を代表していると思い込まないようにしなければなりません。個々人の体験はみんな異なります。ですから、いろんな人の手記を集めます。そうして、自分が一番共感した手記をグループの中で声を出して読み、感想を語り合う。このやり方で問題を身近に感じることが、これまでの活動で確かめられました。これは、いわば朗読ワークショップですが、中学でも高校・大学でもできますし、教員の研修会でも行えます。

 リアリティをいかに伝えるか。患者・感染者が身近にいないことはリアリティになりません。かれらが私たちに安心して伝えられる環境を整えることができれば,もっともっと身近になります。そして、それこそが予防の動機づけにもなります。予防スローガンだけを声高に叫んでも効果は少ないのです。私たち、ぷれいす東京ではそうした手記集を刊行していますので、たとえばそれを活用してくだされば幸いです。

◆総括シンポジウム
    
--コーディネーター “人間と性”教育研究協議会・佐藤明子
●中国 首都師範大学副校長/北京性健康協会会長 王万良
 主催者の方々の行き届いたご手配のもとで会議はすばらしい成果をあげました。会議での討論は、中高生の恋愛における教育、社会に向けての結婚、出産・家庭についての教育、エイズ予防の教育など多岐にわたりました。帰国後も性教育の仕事にしっかり取り組んでいこうとする決心をあらためてしました。

 みなさんの報告を聞いて、経済・文化のグローバリゼーションの中で、似通った文化をもつアジアの国々が同じような深刻な課題に直面していることが分かりました。責任として正しい性教育を行わなければなりません。そのためには、組織力を高めるとともに、より多くの専門家の参加を求めたいと思いました。

 また性教育の系統だった学科を作り、研究成果を教材や教育実践に生かさねばなりません。そうすることで地域の人々や政府に受け入れられるものになると思います。3年後に予定されている香港会議で、そうした成果が得られることを期待しています。

●台湾 樹徳科技大学教授 朱元祥

 会議にご尽力されたみなさまに感謝をいたします。次回の会議への期待を述べさせていただきます。アジア地域では若者の中絶や性暴力が増えつつあります。医療・法律のサポートはあっても、まだ不十分です。政府と民間の理念も異なっています。学者や専門家の主張がぶつかりあっていることも事実です。以下、香港会議への提言をいたします。

 まずより多くの国々からの参加がえられるようでありたいと思います。それぞれの経験や研究成果を共有し、交流を通じて現状の認識を深めたいと思います。

 次にそれぞれの政府の性教育に携わる指導者の参加を期待します。性教育の重要性を認識され、さらに性教育をサポートするとともにリソースを提供していただきたいものです。次回のテーマとして、各国の性教育の実施方法に重点を置いてはいかがでしょう。

 保守的な性教育がよいのか、開放的な性教育がよいのか、いまだに定説はありません。したがって、それぞれの国の性教育の実際を参考にしたいと思います。

●香港 香港家庭計画指導会教育組主任 李明英

 会議に参加できて光栄に思います。また実行委員会のみなさまに心から感謝の意を表したいと思います。

 みなさんの職場や地域での性教育の実施状況を理解することができました。6年前に比べますと日本であれ、中国、台湾であれ、性教育およびそれにかかわるサービスがますます多様化し進歩していることが分かりました。また性の権利、両性の平等といった考え方が導入され、社会の多元的な発展に沿ったものになっています。

 香港では、もともと性の観念はさまざまでした。しかしこの数年、宗教的なバックグランドをもった保守的な勢力が台頭し、いろんな宣伝活動を行っています。青少年の禁欲、同性愛の行動治療などを主張しています。これは社会の多元的な発展に対して逆行しています。

 政府の教育省ではここ10年ほどカリキュラム改革を行っていますが、性教育は軽視される傾向にあります。しかし心ある団体もあるので、それぞれに努力し、両性の平等の推進、性暴力・エイズ対策や同性愛者の権利擁護に力を尽くしています。

 2010年の香港における第4回の会議については、さきほど台湾の朱先生からすばらしいご提案をいただきました。多くのみなさんのご参加をお待ちいたします。

●財団法人ジョイセフ(家族計画国際協力財団) 石井澄江

 会議を終えるにあたってその意義を考えますと、性教育に関する国内のネットワークが広がり強化されたことがとても重要だと思います。実行委員会の構成団体にあるように、性教育の現場だけでなく、性にかかわる医療やリプロダクティブヘルスを国内外で推進している団体あるいはエイズ対策に携わっている団体が協力してきました。

 私たちにとって何よりも重要なことは、日本の将来を担う若者たちが自分の意思で選択できる能力をつけることであり、私たちの役目はその環境作りにありますので、今後一層のネットワークの充実を図りたいと思います。

 記念講演・教育講演においては、グローバルな理念や趨勢から始まり、国内の現状・啓発活動に至るまで幅広く、バランスのとれた内容でありました。講師の方々はほぼボランティアに近い形で、講演を引き受けてくださいました。実行委員の一員として、こうしたネットワークはたいへんに素晴らしいものだと思います。分科会においては、教育や医療の現場にいらっしゃるみなさまを中心に、実践・調査活動の成果がバランスよく発表されました。

 私たちの組織ジョイセフは国際協力の活動しかしておりませんので、国内の活動についての理解は不十分なところがありますが、この会議を通して、お互いの理解・認識が進み、またお互いにエンパワーされたことを実感します。これを今後の活動につなげたいと思います。

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